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バンクシーが施した愉快ないたずら「EXIT THROUGH THE GIFT SHOP」

On: 夜の試写室

今年1月のサンダンス映画祭で発表されて以来、巷でちょっとした話題になっているドキュメンタリーがある。先月よりニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコの3都市で公開がスタートした 「EXIT THROUGH THE GIFT SHOP」だ。

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ちょっと変わったタイトルのこの作品、正体不明の名イギリス人ストリートアーティスト、バンクシー(Bansky)による最新のいたずらとも言っていい。

ストリートアートは、グラフィティー(落書き)ベースのムーブメントが活発になり、そのスタイル90年代に確立したとされる。

以来、世界中にスペースインベーダーのモチーフを張り巡らし有名になったフランスのアーティスト、(その名も)Space Invader や、2008年のアメリカ合衆国大統領選挙での、忘れられないあのオバマ大統領(当時候補)のHOPEの肖像画を世に送り出したシェパード・フェリーといったスターを生み出してきた。

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(右はアーティストのシェパード・フェリー)

現在そのストリートアート界の頂点に立つと言ってもいいのがバンクシーである。

バンクシーは10年ほど前からロンドンを拠点に活動を始め。ゲリラ的な手法で活動の場を世界に広げて来た。

一般にアートとして展示される作品と違い、ギャラリーや美術館ではなく、橋のたもとやトンネル、またはビルの壁を不法にキャンバスとすることが多いストリートアートは、テーマとして社会的メッセージを込めたもの、もしくは社会を皮肉ったものも少なくない。

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バンクシーが取り分け長けているのが、そのウィットに富んだプレゼンテーションだ。

例えば数年前、彼がガザ西岸を訪れた際に警備隊より警報の発砲を受けながらもパレスチナ側の塀に残した9つの壁画。

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また一際話題になったのは、一般に正体の知れていないバンクシーが、ロンドンのテイトやニューヨークのMoMA等の一流美術館に自分の作品を忍び込ませ、ゴッホやゴーギャンと言った世界の名作が並ぶ中さりげなく自身の絵画を貼付けるといういたずらだった。

しかし彼の特徴はその展示場所や方法に留まらず、ステンシル(版画)を用いて描かれた、美しくて時には愛らしい作品そのものにもあるのだ。

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(最近サンフランシスコで発見されたバンクシーの新作)

さて、だいぶ前置きが長くなってしまったが、このドキュメンタリーはもともとバンクシーではなく、ロサンゼルスに住むフランス人移民のテリーというちょっと変わった人物が発端だった。

もともとロスで古着屋を営んでいたテリーは、ビデオカメラを常備し、目的もなしになんでも撮影するという奇妙な癖の持ち主だ。

このテリーと言う人物、実は先に述べたフランス人ストリートアーティスト、スペースインベーダーのいとこでもある。

あるときからテリーは、深夜に一目を盗んでアート活動を行うスペースインベーダーに付き添ってその活動を記録するようになった。

ストリートアートの世界は思いのほか狭い。既にこの世界を記録することに夢中になっているテリーは、やがていとこを通して、ロスで活動するシェパード・フェリーにも紹介され,やがてシェパードのアシスタント的存在にまでなっていく。

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(シェパード・フェリーの壁画は、
現在マンハッタンのハウストン沿いでも観ることができる)

そんなある日、テリーはバンクシーの存在を知ることになる。

ストリートアートを記録する上でバンクシーとの対面は欠かせない。

しかし、正体をひたすら隠して来たバンクシーに終始カメラを持ったテリーが接近できるだろうか。

その後間もなく、友人のシェパードより知らせが...念願のバンクシーに紹介してくれるというのだ。

そこで意外にもテリーにバンクシーより撮影の許可が下りる。
もちろん複数の条件がついての上だが。

この一風変わった、異常なまでの執念を持って撮影を続けるテリーにバンクシーは興味をそそられる。

この時点で既にバンクシーのからくりの歯車が回りだしていたのだろう。

テリーとバンクシーの関係が深まるにつれ、バンクシーやシェパードに触発されたテリーは自らグラフィティー・アート活動を開始する。

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常にかけているサングラスをモチーフに、他人にデザインを考えてもらい編み出した名前はMr.ブレインウォッシュ(MBW)。

さほど深い思想も無いまま、テリーは街中にMBWのロゴを気違いのように張り巡らす。

そこでバンクシーはテリーに意外な提案を持ちかける。
「MBWとして小さなショーを開いてはどうか。」

人気絶頂にあるバンクシーのショーを目の当たりにしたばかりのテリーは是非やりたいと自信満々に大乗り気だ。

けれど、テリーの作品はどれもウォーホールやバスキアといった、既に完成されたポップアートに簡単に手を加えたもの。
しかも自分が持ち合わせていない技術は、売れない画家やイラストレーターを雇って作らせる始末。

しっかりと前評判作りまで仕掛けて自分をMBWとして売り出すことに余念がない。

テリーはこのショーに自分と家族の全財産を賭けているのだ。

これにはバンクシーやシェパードもあきれかえって、ただ静かに見ているしかない。

果たしてテリーのショーは成功するのだろうか...。

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(マドンナのニューアルバムのカバーはMBWがデザインした)

ドキュメンタリーは、パーカーのフードで顔を隠し、ボイスチェンジャーを使って話すバンクシーとのインタビューを織り交ぜながら進行する。

*トレーラーはこちら

半ば気違いのテリーが、当てもなしにただストリートアートとバンクシーを追って始まったはずのドキュメンタリー。

不思議と最終的に出来上がったのは、テリーが記録した映像(おそらく何万時間にものぼる)を巧みに編集し、ユーモラスなナレーションを加えたバンクシーによる、テリーという奇妙な人物のドキュメントだ。

バンクシー自身は一度もカメラを手にすること無く、最高に皮肉で興味深い映画を作りあげたのだ。

自らのストリートアート性を固持しながらも、今ではギャラリーやオークションといった正当な場で作品が展示、売買されることでバンクシーに対する世間や批評家からの批判も強い。

しかし、果たしてそれはバンクシーというスーパースターが、なかなか芸術とし認識されることのなかったストリートアートというジャンルの価値を上げ、パラダイムを一変させたからなのか。

それとも周りが批判するように、ただ大きなアート市場に媚を売っているだけなのか。

そもそも、アートとは何なのだろうか。その価値を定めるものとはなんなのだろうか。

こういった質問を再び社会に面白おかしく投げかけたのが、バンクシーのこの何とも魅力的なドキュメンタリーなのである。

*「EXIT THROUGH THE GIFT SHOP」は現在マンハッタンのランドマーク・サンシャインシアターにて公開中。5月21日より全米で公開予定。

*バンクシーの作品を更に観たい方はこちら