ニューヨークからプロライター達がお送りする、「ここだけ」のおもしろ情報。

妊婦にとってパラダイスなニューヨーク

On: ヒトコの小径

3人目の妊娠で、しかも8ヵ月目に突入すると、お腹もかなり大きく膨らんできて、さすがに誰の目から見ても明らかに「妊婦」であることがわかるような体型になってきた。

友人にも「仁子さん、だんだん、歩き方も相撲取りのようになってきたねぇ」と言われてしまうくらい、人前でも「妊婦」であることに思いっきり甘んじている私である。

「だって、本当に重くて重くてしょうがないのよね。最近、手足もしびれるし、息切れもするしさあ。まあ、注射の副作用だと思うんだけど」と、思わず赤面して言い訳をしてしまった。

しかし、ニューヨークの人々は本当に妊婦に優しいとつくづく思う今日この頃である。友人によっては「地下鉄で席を譲ってもらったことなんてないわよ。ちゃんと、妊婦だから譲ってくださいって言わなくちゃダメ!」などと言う人もいるが、私の場合、座りたいのに座れない、などと言うことは今まででも全くない。必ず、さっと席を譲ってくれる人がいる。

それが、高校生ぐらいの若い男の子だったりする時もある。日本の若い子は、「妊婦=やった」と思う人が多いに違いないのに、アメリカの若い子どもは照れることもなく「妊婦」と接触するのにもためらわない。とても感心する。だから、そういう時には、私も心からお礼を言うようにしている。

公衆トイレの列に並ぼうとしたら、「先に入っていいわよ」と優先させてくれたり、重たい回転ドアーの前では「後ろから押してあげますよ」とわざわざ声をかけてくれる人もいる。

今年の始めに、ヨーロッパへ行く機会があったが、旅行前は、「妊婦が一人で大きいスーツケースとか持っていたら、階段の上り下りの時とか、ちゃんと誰かが助けてくれるかなあ?」などと少々心配ではあった。「レディファストが定着しているヨーロッパだから、大丈夫ね」と、勝手に思い込んで旅立ったのだったが、実際は、全く特別扱いされなかったのでかなり驚いた。

最初の目的地だったミラノに着いたら、空港でスーツケースが出てこなく、3日間、スーツケースなしの旅になってしまった。今から思うと、それは逆にラッキーで、その間の移動は、かなり楽だったのだが、階段も多かったし、もしスーツケースがあったら、とても大変だったと思う。

ロンドンへ移る時の空港での待ち時間では、空いている席はないかな、とお腹を突き出してあたりを見回していても、誰も席なんて譲ってくれないし、それどころか「あの人、妊婦なのに飛行機なんて乗るのかな?」的な冷たい視線を感じてしまったくらいだ(現地で落ち合った日本のスタッフの方々にはとっても優しくしていただき、嬉しかったです。ありがとうございました)。

10年以上、ニューヨークに滞在し、ニューヨーカーのラフなところだけが鼻についてしまい「ニューヨークの人間は、もうキツい人が多くてイヤだ」と思っていた。しかし、今回、一週間にも満たない短い出張ではあったが、ニューヨークを離れてみて、久々にニューヨーカーのいいところを再発見した次第である。それは、私にとっては大きい収穫だった。普段、文句ばかり言っていたニューヨーカーの夫にも、ちゃんとそう感じたことを教えてあげなくてはいけない、と思った。

「僕は、ワイフが妊娠している時が一番好きだ。ワッハッハ」とか、「妊婦の側にいるのって、とっても素晴しいことだよ。ヘッヘッヘ」と、先日、たまたま妻がみんな妊娠中だという友人同士で集まったパーティで、男性陣が私たちの横に集まってそう皮肉まじりの冗談を言っているのを聞いた。

「え?そうなの?本当はみんな、妊婦は扱いにくくて厄介だと思っていたわけ?」と気付かされた。

アメリカでは、女性が強くて怖いから回りが優しくしてくれているだけなのかもしれない。

そういえば、先日、近所のスーパーマーケットでストローラーに乗っていた次男が、棚に積み上げられていた缶詰をフロアーに落としてしまった時、従業員に「ちょっと、ちょっと、ちゃんと拾ってね!」と注意されても、「あのねぇ。妊婦にとっては、床に落ちているものをしゃがんで拾うのだって容易なことじゃないのよ!」と即座に言い返してしまったなあ。そう言いながらも拾って缶詰を元に戻した自分が無性に悔しくなり、後でマネージャーに「従業員には、もう少し子連れの妊婦に優しくするように教育して欲しい」と文句の一つや二つ、言ってやろうと思ったのも事実だ。

友人にそのことを話すと「You pick that up!(アンタが拾いなさいよ!)って言ってやればよかったのに」と、やはり一緒になってその従業員の態度に腹を立ててくれた。

夫には「君の言うこともわかるけど、そんなことでいちいち怒るのは、エネルギーの無駄使いだよ。大体、君は、最近怒りすぎで、スケアリー(怖い)。昔はもっと優しかったのに」とぽつりと言われた。

ニューヨークの女性は、統計的に言ってもストレスを感じている人が多いと言われている。それでもって私のように30代後半以上で妊娠するワーキングマミーも圧倒的に多いのだ。

「そうよ。少しは私たちの苦労だって、わかってもらわなくちゃ。器用にこなしてはいるけど、決してそれは簡単なことじゃないんだから。自分で選んだ道だし、ベイビーシッターがいてくれるけど、私たちも辛いのよ」

だから、私たちは、優しくされるのは「当り前」だと思っている。

自分でも気付かなかったが、これが、私を代表とするニューヨークのワーキング妊婦の態度なのかもしれない。

まあ、考えてみれば、確かに怖い。おばさんパワーなのかニューヨーカーなのか、それははっきり言って自分でもわからないが、これからは、ちょっと気を付けよう。そういう怖い妊婦を受け入れてくれるニューヨークにも感謝しなくてはいけない。

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