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初恋はいつまでもまぶしく「ブライト・スター」

On: 夜の試写室

久々に映画館でナチュラルでモダンな純愛というものを観た気がする。9月下旬より、全国に先駆けてNYCで公開されている「ブライト・スター」だ。

「ブライト・スター」


実はこの映画、完全なイギリスの時代劇。 悲しくも若くして亡くなった有名なイギリスの詩人キーツと、その叶わぬ初恋の相手ファニーのはかない恋を描いた物語。

最近では、ストーリーをおろそかにしてまでむやみに派手な衣装や美術にこだわり、その時代背景を強調したがるピリオド映画が多い。

その中で、このジャンルならではの映像や装飾美はそのままでありながら、素朴な恋愛を何気なくリアルに表現していることが実に意外で新鮮だ。

監督は「ピアノレッスン」でオスカーを受賞したオーストラリア人のジェーン・カンピオン。これまでは、女監督ならではの視点で、傷ついた女性を官能的に描いた作品が目立った。

その彼女が数年ぶりに撮ったこの作品は、恋人の二人がキスに至るまでもをじらそうという純で清楚なもの。

やがて結核に倒れる運命にある、ひ弱な主人公ジョン・キーツ(イギリス人俳優ベン・ウィショー)は、売れない詩人として貧困の毎日を送っている。

同じ作家業をに励む友人達からは高い評価を受けるものの、世間一般や評論家の反応は冷たい。

そんな彼と思いがけず恋に落ちるのが、キーツの居候先の隣(というか、同じ屋敷の一角)に住む18歳の勝ち気で聡明なファニー・ブローン(オーストラリア人女優アビー・コーニッシュ)。

このファニー、文学には疎いが、 裁縫が大の得意。自分で縫った服や小物を売ったり、プレゼントにしたりもする。中にはかなり奇抜なデザインも…。

タイトルのBright Star(明るい星)とは、かつてキーツがファニーに宛てた詩の中で、彼女のことを指す。

ポスト=ケイト・ウィンズレットとしての呼び名も高いコーニッシュの俳優としての力量が目立ってか、まさに彼女は断然この映画のスターだ。

キーツ役のウィショーは、うつろな目つきとわざとらしい咳き込みかたで結核ぶりをアピール。話の主人公であるはずが、コーニッシュの気迫に負けてちょっと地味目のヒーロー。

後に名詩人としてその名を残し、さらに後の名詩人達に影響を与えたキーツ。彼がもっとも優れた作品を盛んに書きだしたのは、ファニーと恋仲になってから他界するまでの2年間だったそうだ。

映画の中では、キーツがファニーに詩を朗読するシーンが数多く登場する。

キーツの詩に覚えのない観客にしてみれば、無理矢理おしつけられている気がしてうんざりしてもいいところだ。

けれど、ここでは不思議とキーツの詩を初めて聞くファニーの気持ちになってすんなりと聞き入ってしまう。

おそらくそれは、この二人が偉大な詩人とそのMuse (詩神)としてではなく、ジョンとファニーという誰もが共感できる、ただの若い男女の素朴な姿として映し出されているからだろう。

センチメンタルになりがちなこのストーリーが妙に感動的なのは、変に時代物であることを意識せず、二人の若い恋人の激しく切ない気持ちを飾らず正直に描いているところにある。

さらに、カンピオン監督は詩や死といった重いテーマを扱う上で、ユーモアの大切さも忘れていない。

裁縫好きのファニーが、パーティーでキーツの気を引こうとして自慢げに自分のドレスを披露する。その時の台詞が「この、トリプル・プリーツ・マッシュルームカラー(三段重ねプリーツの襟のことを指すらしい)をまとったのは、この町では私が初めてよ。」

しかしこの襟、おしゃれというよりもインパクト重視と言った感じ…。

一時離れて暮らさなければならないキーツとファニーは手紙の交換を繰り返す。その中で、互いの恋を夏の日のはかない蝶に例えたキーツに触発されて、ファニーは弟妹に捕獲させた蝶を部屋いっぱいに飼って蝶園を作ろうとするが…。

<映像は>こちらのページの上の方にあるクリップをご覧ください。>

ここでの、ファニーの若いゆえの初恋への思い入れと、家を蝶園と化されて迷惑がる母親のギャップが微笑ましい。

さらに、ファニーの妹で、何とも可愛らしい真っ赤なくるくる巻き毛の少女と、ここぞというおいしいシーンに登場して笑いを誘うブローン家の猫が優秀なアクセントとしてストーリーを和ます。

時代劇と聞いて、禁欲的でつまらないというイメージを持つ人が多いせいか、やはりアメリカではなかなか当たりのでないジャンルだ。

それでもそこそこの資金をかけて、こういった作品を撮り続けるのは、時としてこういった優れたものが生まれることを期待してのことかと思わせるくらいにうまくできたラブ・ストーリーに仕上がっている。

*「ブライト・スター」は、10月より全米各地で公開。
http://www.brightstar-movie.com/