ニューヨークからプロライター達がお送りする、「ここだけ」のおもしろ情報。

No.5 スリーピー・ホロウでホラーな秋を

On: Across the Universe(更新終了)

アメリカが独立を果たして間もない18世紀末のある秋、ニューヨーク市郊外のオランダ人入植地「スリーピー・ホロウ」で、村民の首が次に次に切り落とされるという事件が起こった。

ヘッドレス・ホースマン(首なし騎士)の伝説が残るこの村へ、事件を解決すべく向かったのは、ニューヨーク市捜査官イカボット・クレーン―。

これは、1999年にティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演で公開された映画『スリーピー・ホロウ』の冒頭。オランダ人のヒロインは、クリスティーナ・リッチが演じた。

SLEEPY HOLLOW
PHOTO : mueredecine


原作はワシントン・アーヴィングの『スリーピー・ホロウの伝説』で、1820年出版という古~い小説にも関わらず、今でもハロウィンの時期に学校や本屋さんにピックアップされる名物小説。過去に、テレビ番組やブロードウェイショー、オペラにもなっている。

スリーピー・ホロウは、ニューヨーク市内から電車で40分ほど北上したハドソンリバー沿いに実在する村だ。もっともその村名は、小説にあやかってあとで付けられた名前だが。

アメリカが独立する前からオランダ人がここに根を下ろし、今でも当時の建物がいくつか残っている。また、物語のヒロインと同じ名字「ヴァン・タッセル」を持つオランダ人の子孫もたくさんいるという。

作者のワシントン・アーヴィングは、元々マンハッタンで生まれ育ったが、小学生の一時期をここで過ごし、その後外交官として活躍したのち、この村に戻り居を構えた。

ちなみに、ニューヨーク市のニックネーム、「ゴッサム(Gotham)」は、アーヴィングによるもの。また、ニューヨーカーやオランダ移民のことを「ニッカー・ボッカー」と言うことがあるが、これもアーヴィングが創り出した架空の人物「デートリッヒ・ニッカーボッカー」から来ているそうだ。

現に、小説『スリーピー・ホロウの伝説』は、ニッカーボッカーという作家の後年の作品の中から見つかった物語、という二重設定になっている。

そんな影響力を持つアーヴィングにより、まず、村の丘の上の広大な墓地の名前が「スリーピー・ホロウ・セメタリー」に変わった。村は墓地と小説の舞台として有名に。

そして、最近になって、村の名前そのものも、「ノース・テリータウン」から「スリーピー・ホロウ」に変わってしまった。

Sleepy Hollow
PHOTO : Janesdead

まさに、小説にあやかっての村おこし。実際、この村では秋になると物語にちなんだホラーなイベントが催される。

小説を読んでその村に興味を持った私は、先日、あるイベントに参加してみた。それは、暗くなってからランタンを手に墓場を回るホラーなツアー。肝だめしみたいで面白そう!?

友達を誘って、現地「スリーピー・ホロウ・セメタリー」へ行ってみると、ガイドさんがちょうどランタンに火を入れていた。挨拶をしあって、さあ出発!

まず向かったのは、小説の作者、アーヴィングのお墓。なんてことない、シンプルなお墓だが、しっかりとハドソン・リバーに向かって立っている。周りのお墓は彼の親戚たちのもの。みんなで川を眺めているんだな。

アーヴィングのお墓。

アーヴィングのお墓を見終わった段階で、急にあたりが真っ暗に。墓場には外灯は一切なく、かすかに虫の声だけが聞こえる、まさにホラーな雰囲気。

次に着いたのは棺の安置所。日本と違って火葬しないここでは、特殊な薬品を死体に塗って棺桶ごと土に埋めるが、棺を受けてから作業をするまでの間、いったん安置所に収容する。

ちなみに、私たちが入った安置所は今は使われていない場所。そりゃ本物の死体があったら、入れないし、入りたくないよな。代わりに迎えてくれたのは、おもちゃのガイコツ。ホラーというより、ギャグっぽい。

おもちゃのガイコツ。

棺桶がそっくり入る穴がいくつもあって、カプセルホテルを彷彿とさせる。ホラーツアーの一環で、ここをホテルにしたらいいんじゃないだろうか?隣に本当の棺も置けば、かなーりスリリングだと思うけど。

その後は、さまざまなお墓のデザインを見ることに。こちらは「逆さトーチ」。亡くなったしるしとして、トーチがさかさまになっているが、その先からはまだ炎が出ている。これは、死んでからも魂は生き続ける、ということを表しているそうだ。

逆さトーチ。

このように、ニューヨーク側に多かったプロテスタントにとって、死は「終わり」ではなく、神の元に行くという喜ばしい「続き」を意味し、お墓にも微笑んだエンジェルが描かれていることが多いという。

逆に、ニューイングランドの北東、ピューリタンの多かったエリアは、死は「終わり」でしかなく、険しい顔のエンジェルやドクロマークのお墓が一般的とのこと。

そうそう、以前ボストンで建国時の政治家たちのお墓を見たとき、確かにこんなドクロマーク多かった。小さいころ漫画でよくこのマークを見たけど、お墓にそれが描かれていたのかー、と、変な感心をしたものだ。

お墓のドクロマーク。

それから、薄い石が立っているだけのお墓を見ると、必ず、1メートルくらい手前に、小さな薄い石もある。これは、それぞれヘッド・ストーン、フット・ストーンといって、埋められた体の頭の位置と足の位置を示すもの。これも灰だけを入れる日本と違う。

ということで、ランタン・ツアーは、私にとってちっともホラーでなく、文化の違いを知る興味深いツアーになってしまった。私、「墓代やメンテナンスフィーはいくらかかるの?」なんて、現実的な質問しちゃってるし。

そして、ツアーは歴史の勉強の場でもあった。

1700年代(江戸時代!)のオランダ語が刻まれたお墓を見ながら移民の話を聞いたことはもちろん、ガイドさんが重要人物のお墓を回るたび、その人生を要約して説明してくれたからだ。

例えば、このスリーピー・ホロウ・セメタリーには、ロックフェラーにカーネギーにクライスラーの墓がある。(ロックフェラーとクライスラーはゴージャス、カーネギーは意外にシンプルなお墓)

それから、大富豪アスター一族の何人か、IBM初代社長のトーマス・ワトソン、化粧品エリザベス・アーデンで成功したエリザベス・グラハム。有名な犯罪者や労組のリーダー、あの世とのチャネラーなどなど。

数年前、莫大な遺産を愛犬に相続して話題になった、不動産の女帝レオナ・ヘルムズレイもここに眠る。彼女のお墓が入った建物には、マンハッタンのスカイライン(摩天楼)がステンドグラスで作られていた。

しかし、最後には、やはりここが小説スリーピー・ホロウの舞台だということを思い出させてくれた。小説の主人公イカボットがヘッドレスホースマン(首なし騎士)に出くわす橋が墓地の中にあるのだ。

墓地の端の真っ暗闇の中、ランタンの光だけで浮かび上がった木造の小さな橋は、いつ幽霊が出てきてもおかしくないほど、さすがにスリル満点だった。

Jack-O-Lantern
PHOTO : outdoorPDK

ハロウィン前後の2ヶ月間の週末にだけ行っているこのランタンツアー、10月のチケットはもう売り切れになるほど人気。

でも子ども向けのイベントがあるようなので、ニューヨーク周辺在住で、お子様がいる方はチェックしてみては?
スリーピー・ホロウ商工会議所
 
ちなみに、1922年の映画の撮影はこの村で行われたが、ティム・バートンの方はイギリスで撮影されたそう。ジョニー・デップが来た地だわ~という期待を持って行ったらそれは残念、間違いです!

実際のスリーピー・ホロウに行けずとも、この映画や小説は秋の夜にぴったり。
200年前のオランダ人移住地にタイムトリップして、ヘッドレスホースマンの伝説を楽しんではいかが?

●ティム・バートン映画『スリーピー・ホロウ』
(ヘッドレスホースマン役のクリストファー・ウォーケンも怪演!)

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●原作『The Legend of Sleepy Hollow』by Washington Irving
(原作では、主人公イカボットは教師)

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