ニューヨークからプロライター達がお送りする、「ここだけ」のおもしろ情報。

期日前投票が始まった:街もざわつくアメリカ大統領選の結末と赤いセーターのケン・ボーン

On: 時事ジャーナル ニッチ通信
hitoko102016_f

さて、ご存知のように、先日、10月19日、ネバダ州ラスベガスにて、投票日が来月へと迫った2016年アメリカ大統領選に向ける最後の大統領候補者による討論会が行われた。

これについては、もう何も言うことはない。
というか、何だか言う気もしない、というのが本音。

これが将来のアメリカの大統領になるかもしれない人たちによるディベートか?と思えるほどの内容だったことは、もう誰もが痛感したと思う。

偉人は口数も少なく、人の話を聞くことから始まる。
ましてや人の悪口を言ったりののしったりするのは言語道断、という信念が全く覆されるものだ。

国のトップに立つ人たちの姿がこんなに下品でリスペクトがないと、私たちまで、右へ習えでそのようになってしまいそうだ。

その証拠に、ミズーリ州セントルイスで行われた第2回討論会が行われていた最中に、元夫からのメールにキレた私は、普段だったら余計なエネルギーを注ぎたくないとスルーしたところだが、ご丁寧に理論立てた返事をずらずらと書いてしまった。

結局その後、数回のやりとりがあったわけだが、結果的にはなんの発展もなく、やはり無駄なことに貴重な時間を過ごしてしまった。

これもヒラリーvsドナルドの戦いに触発されたせいだ(w)。

選ばれた政治家リーダーによるアメリカの将来の行方についての大切な討論会のはずが、いつの間にか昼間のタブロイドトークショー化していて、自分たちの過去のあやまちや問題について感情的に醜い言い争いをしている人たちのように見えてくる。

そういうトークショーは、質の悪い人たちの「フリークショー」とも言われていたが、正にそんな感じ。

ラスベガスでの討論会で、ヒラリーは「親友」ミッシェル「when they go low, we go high.」という言葉を引用し拍手を浴びていたが、全然実践されていない(相手がどんな酷いことをしても、自分たちは決して仕返しをしたりしないで、品行方正を保つ、という意味)。

こうなるとどちらがいいとか悪いとかの問題ではなくなってくる。

本当に困ったものだ。

同討論会で、視聴者代表として候補者へ質問をした赤いセーターを着たケン・ボーン氏がなぜ突然インターネットでセンセーションを巻き起こしたのかは、この辺に理由があると思う。

もちろん、赤いセーターがひときわ目立っていたというのは本当だが、大統領候補者による嫌気がするほどのネガティブ論争の中、見ているだけでも温和でどこかほっとするケン・ボーン氏の風貌は私たちの目にとても新鮮に映ったわけだ。

そしてそのひたむきな彼の質問は、あまりにもシンプルで基本的なものだった。
これがまた 妙によかったのだ。

ケン・ボーン氏同様、未だに「undecided」だというアメリカ国民も多いだろうし、しょうがないからどちらかに投票する、という削除法の例も今回は多々あると思う。

ケン・ボーン氏が全米の心をつかんだ理由は、そんな迷える全米の声を彼が代表していたからなのだと思うし、インタビューなどを通して次々に紹介される彼のパーソナリティーには嘘がない感じがする。

今のアメリカが必要としているのが、善良市民のケン・ボーン氏だった、ということではないか。

 

ピコ太郎に続くインターネットミームで爆発的に有名になったケン・ボーン氏。
人生長く生きていると何が起こるかわからないんだな、と思ったら、なんと彼は、まだ34歳なのだそうだ!奥さんは確かに若くてかわいい感じなので、やっぱり彼もまだ若いんだー、と思ったけど(w)。
二人ともこの不思議な現象に浮かれずに地に足が付いている感じがするところがいい。
ケン・ボーン氏が着ていたIzodの赤いセーターは飛ぶように売れ、もはや品切れ。付け髭とメガネのセット付きでハロウィーンの衣装まで登場する勢いだ。

多分、多くのアメリカ国民も同じように思っていると思うが、候補者について「undecided」の場合、自分が属する党に忠実なアメリカ人たちは、党で判断せざるを得ないわけで、そうなると候補者が誰であれ、関係なくなってしまうわけだ(ただ、今回はかなり異例のような気もするが)。

ニューヨークにはリベラルな民主党が多いと信じられているが、私がNCに引越しする前の4年間住んでいたウエストチェスターや親戚のいるロングアイランドなどニューヨーク郊外には、保守的な共和党も多く住んでいる。

実際に、そのエリアで生活する仲のいい友人がFBでトランプ支持を公表していることを知った時には、かなりなショックを受けた。

共通の友人に思わず「彼女、トランプを支持してるって本当?冗談よね?」とテキストしたのだが、これに対するはっきりとした返事が来なかった時の衝撃は、誰が何と言おうとかっこいいヒーローだったクリント・イーストウッドトランプを支持すると表明した時と同じぐらいの裏切られた感があり、アンジェリーナ・ジョリーブラッド・ピットが離婚したというニュースを知った時と同じぐらいキツネにつままれた感じがした。

つまり、マジで、ドナルド・トランプを支持している人たちもいる、ということを学んだわけだ。

そして、彼らの言い分を聞いていると、確かに納得する節もある。

ダーティー・ハリーが言うように「じゃあ一体、誰に投票しろって言うんだい?オバマ政権に失望してきた俺たちにはもう民主党にチャンスを与えるほどの余裕はないんだぜ!」というのもわかる(しかしやっぱり「Go ahead. Make my day」ロナルド・レーガンが言ったからかっこよかったわけで、この決め台詞をトランプが言ったらどうなるのかな… )。

よくトランプ支持者は、白人ブルーカラーの田舎者に多いと日本人の口から聞くことが多いけれど、アメリカという国は、その白人ブルーカラーの人口がもっとも多いということ。

そして、アメリカはほとんどが「田舎」で成り立っている、ということを理解しないといけないと思う。

ニューヨークはむしろ例外で、すぐ川向こうに住むニュージャージーやロングアイランドの住民(いわゆるその昔「ブリッジ&トンネル」と馬鹿にされていた人たち)にしてみたら「あそこはアメリカでない」と思って近づかない人だって多いのだから。

ニューヨーク市は、高い教育を受けた人が多いからリベラルなのではなくて、移民が多いからリベラルなのだ。そしてそれはアメリカではごく一部のマイノリティーである、ということは紛れもない事実である。

そういうトランプ支持者の彼女たちのFBのページでは、トランプを馬鹿にする人たちと同じレベルで、クリントンのことを悪く書き立てるコメントが並んでいる。大統領候補者二人の名前を入れ替えてもそのまま文章が成り立ってしまう感じが妙に怖かった。

いくらなんでもあのトランプが大統領になることはあり得ない、と思っていても、このアメリカという国全体のことを理解していたら、もしかしたら、それもあるかもしれない、と思えてくるわけだ。

政治活動家とも知られているマイケル・ムーア監督は、かなり前から「このままだとほんとうにトランプが次期大統領になってしまう(http://michaelmoore.com/trumpwillwin/)」、と宣言し、最後の討論会が予定されていた前日の10月18日に、ニューヨークのIFCセンターにて彼の新しいフィルム「Michael Moore in Trumpland」のプレミアム上映を行った。

これは題名からして、トランプに焦点が置かれていて、いかに彼が酷い人物かを物語るドキュメンタリーに違いないと思っていたが、そうではなく、トランプの名前が出てくるのもほぼタイトルだけで、内容的には、元サンダース支持者でこのままだと家にこもって投票すらしないだろうと思われる若者たちにヒラリーでいいので投票するように」と呼びかけているものらしい。

彼的には、ヒラリーはイラク戦争を支持していたわけで、道徳的には賛同できない要因も多々あるが、それでも大統領としては悪くない、と言うことだ。そして無投票となるのが最悪な事態を招くわけで、この国を救うためにもヒラリーに投票を」と訴えている。

無投票やグリーン派への投票は、実際にはトランプ票を稼ぐことになるとかならないとか、いろいろ様々なことが言われているだけに、投票する側としては、かなりややこしい。

アメリカでもこれだけ盛り上がる大統領選にも関わらず、実際の投票率は過半数を割るわけで、決して高くない。

投票日が近くなってくると、人が多く集まるであろう場所で「登録はしましたか?」と通行人に話しかける人たちをよく見かける。
投票に興味のない登録していないと思われる人たちには移民や低所得者が多く、そのようなターゲットを多く支持者に持つリベラル派グループの活動である場合が多いのだそうだ。オバマ大統領も、弁護士として働く前は、この有権者登録活動(Voter Registration Drive)に関わっていた。

上に載せているケン・ボーン氏の動画も赤いセーターのメーカーである Izod と一緒に作った有権者向け登録斡旋を促すものだ。

彼は「選挙が終わったら全てが終わり。僕のこの人気も続くわけじゃない。とにかく、選挙には参加することが大切なので、今回のこの選挙のプロセスで一役買うことができてとても嬉しい」と言っている。

動画の中でも彼が数回繰り返すのが「Political Process」という言葉。
政治家が候補者に指名されてから当選するまでのプロセスという意味だ。
今年の流行語になるのでは?と思うほど。

今回は非常に異例な選挙戦だっただけにそのインパクトは強烈で、政党内においても次回からはもう少し「Political Process」を見直す必要もあるのではないか、と思う。

一応、言っておくと、有権者を登録させるためには、政府も公平な立場から、様々な努力をしている。

例えば、初めての免許証受理でわくわくしている16-17歳の若者を対象に、18歳になった時に投票できるように登録を奨励する州もある(ノースカロライナはその州のひとつ。今年の春に免許申請をした17歳の長男も、しっかりとその場で有権者登録を済ませておいた)。

同じく高校生を対象としたものでは、大学入学を控えている高校生のシニアを対象に、多くの友達や知り合いに有権者登録を成功させると学費用奨学金がもらえる、というものがあるということも発見した。

登録させた人数によってもらえる金額が異なるわけで、何だかマルチ商法にも似たりよったりだなと思ったりもするが、ファンドレイズなどの寄付金集めと同様で、このような声かけ活動はアメリカでは、次世代リーダーを促すためにもとても大切なものとされているようだ。

さて、TV討論会が終了した次の日の10月20日から、期日前投票(Early Vote)がここ、ノースカロライナ州でも始まった。


早めに投票すると、このようなステッカーがもらえる。
「I Voted Today!」というのが標準のステッカー。
実際にこのステッカーは、プロモーションに役立っていると感じることが多く、このステッカーで、投票することをリマインドされたりする。うっかり忘れるところだった!という人たちを減らすことに役立っていると思う。

都会の雑踏の中ではなかなか気が付かないと思うが、田舎で生活していると、こういう時の人々の動きは顕著に感じられる。

19日の最後の討論会を見てからどちらに投票するか決める、と思っていた有権者たちが、続々と朝早くから各投票会場に集まり長い列が出来ており、私がオフィスへと向かっていた道中でも普段は誰もいない場所なのに、人だかりがあり、なんだかざわざわしているなという印象を受けた。


ダーラムのダウンタウンにある投票場での列は、8時ごろから始まり、午後3時ごろまでずっと続いていたらしい。
その間、ニュースの取材は来るは、ノースカロライナのNAACP(National Association for the Advancement of Colored People・全米有色人種向上協会)の演説はあるは、どこかでマーチをしているは、または消防車は登場するはで、かなり騒がしい一日となった。

期日前投票と言ったら、これも投票率をあげるために、比較的「自由がない」と思われる労働者階級の人たちのために、11月の投票日以外にも約2週間前から早めに投票ができるというシステムだ。

期日前投票の場合は特に、写真付き身分証明証の提示が義務付けられている州が多い。

そして、そうなると必ず反対運動が発生する。つまり、写真付き身分証明証の必要性を取り下げるという動きだ。

なぜ、そんなことが問題になるのか?

私も最初は全然わからなかったが、写真付き身分証明証は、低所得者には極めて入手困難なものであるということ。免許証やパスポートを持っていない人たちがたくさんいる、という事実を、私も友人から説明を受けてあらためて気がついた。

投票場所によっては「No Photo ID Required」などとやたらと目立つサインが掲げられているところを見たことはあったが、そういうことを知らなかった時期は、何でそんなサインがあるんだろう?とは一瞬思ったもの、そのまま素通りしていた。同じ移民でも、日本人など比較的「恵まれた」人たちは考えつかないことだと思うが、理由を知って、なるほどー、と大きく納得したわけだ。

2000年のフロリダ州での集計ミスや外国人でも投票できたという事実を大きく改善するために、それ以来、投票時には写真付き身分証明証の提示を求める州が増えたわけだが、そこで、反論するのが、NAACPだったわけだ(そして、彼らをサポートするのは、リベラル派の民主党)。

不正投票を避けるためであるはずの身分証明証提示の義務は、アメリカの美しき民主主義を守るもののように聞こえるが、裏を返すと、身分証明証がないと投票できないとするこのシステムは、身分証明の入手が不可能である有権者マイノリティーの投稿を防ぐ差別だと言われている。

それゆえ、全米で一環してこの写真付き身分証明証の提出義務がなくなるまでは、期日前投票時には、NAACP始め、いろいろなマイノリティー団体による、各地でのマーチが予定され、長い列を連なる人々を前に、彼らは声を大にして、社会へそのメッセージを送っているわけだ。

普段は静かな街で仕事をしている身としては、ちょっと迷惑(w)。
日本の政治家が街角にてマイクでいろいろしゃべっているあの感じにも似ているし、ダーラムのダウンタウンは、治安がいいわけでもないし、安全を確保する上でやや不安を感じる。

私自身もマイノリティーであるわけだし、オフィスでは「うるさいよねー」なんて口が滑っても言えないが、20日から始まった期日前投票が終わるまで、彼らのイベントは続くらしい(スケジュールはこちら)。

現在、ノースカロライナ州は、今回の大統領選において決定打となる5つの州のうちの一つだと言われていて全米から注目されている(他には、フロリダ、ペンシルバニア、オハイオ、そしてミシガン)。

ノースカロライナが入っている理由としては、州に存在するカレッジタウンの学生たちの票がどうなるかということと、やはり先月のシャーロットでの警官による黒人銃弾殺人事件の関連が大きいようだ。

それゆえに、今週から、ドナルドヒラリーは、これらの州を中心に、最後の集会を開始しているようだ。

ヒラリーは、ノースカロライナ州のこの辺には当分来ないらしいが、先月9月には夫であるビル・クリントンが妻のサポートキャンペーンとして単独でデューク大学へ訪れイヴェントに参加している。

その時に、重要な課題として残っている学生ローンについて語っていた。

 
学費がアイヴィーリーグ並に高くどちらかというと裕福な家庭の子どもたちが集まるデューク大学でそんな話をするよりも、NCで黒人が初めて通えるようになった大学として地元では誇り高いNCセントラル大学の方が効果的だったような気もするが(留学生なども少なく地元ノースカロライナ出身の人が多いわけだし)、実際、新学期が始まったその時期に、デューク大学では今年度の学生人種多様性統計(ethnic diversity statistics)で「初めてマイノリティーが50%を占めるようになった」とニュースになっていた(そう言えば、次男がここ3年間ずっと参加しているデューク大学のサマーキャンプでも「インド人や中国人などのアジア人ばかりだ」と言っていた)。

そういう意味では、マイノリティーを狙うキャンペーンとしては、正しいのかもしれないが、やはり、アメリカではマイノリティーとしては圧倒的に人口の多い黒人やヒスパニック系を狙うべきだと思う。

多分ヒラリー・クリントンが勝つと言われているが、この二者の戦いは、もう少し続くような気がする。

ケン・ボーン氏がどちらに投票するかを公表するかによってかなりな票が動くことになると思うが、彼は「そんなことは妻にも言わない」ということらしい。個人的にはその辺もやたらと共感する。

いずれにしても、今の段階で私が注目するのは、誰が次期大統領になるか、ということよりもむしろ、11月の選挙結果で票が集められなかった方の敗北宣言(concession speach)が、どのようなものになるかということだ。

スピーチライターがいるにしても、プロの脚本家によって作り出されたシナリオを実際にどれだけの言葉力で全米に言い放つことができるのか。このスピーチで、人間としての器の大きさが浮き彫りになるのではないかと思う。

本当の勝敗が決まるのは、実はその時ではないか、と話題連載ドラマの最終回を楽しみにしている気分だ。

クイズ20人ぐらいに聞きました!

あなたが期日前投稿に行く理由:

期日前投票に行く場合

1)明日死ぬかもしれないからその前に確実に投票したい
2)もういろいろ悩むことから解放されたい
3)選挙当日は仕事で抜けられない
4)どちらに投票したいかはっきりとわかっている
5)選挙当日の長い列に並びたくない
6)もうこの騒ぎを自分の中で終わりにしたい

期日前投票に行かない理由

1)最後まで何が起こるかわからない
2)更なる不祥事やスキャンダルなど、大どんでん返しがあるかもしれない
3)しっかりと最後まで候補者の態度を見届けたい
4)誰に投票したいかわからない
5)時間がない 

などだった。

上山仁子のHP:http://www.hitoko.com/

上山仁子のブログ:http://ameblo.jp/nymommy/

アメリカノースカロライナと近郊在住日本人による生活娯楽情報発信サイト : http://ノースカロライナ.com/