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No.94 憧れのアーチスト、ジャレッド・レトに見つめられた超現実なひととき

On: セレブの小部屋

©Kurt Iswarienko

私は心から気に入った曲に出会うと、同じ曲を毎日、1ヶ月も2ヶ月も続けて聴き続けるクセがある。
それほど、心をつかまれる曲は多くないが、一旦、出会ってしまったら、もう大変。一日中、その曲が耳から、頭から、離れない。

そんな曲の一つが、アメリカのバンド「30 Seconds To Mars (サーティー・セカンズ・トゥー・マーズ)」”The Kill”だ。このバンドのシンガーで、この曲を作ったのが、俳優でもあるジャレッド・レトだ。

”The Kill”を熱唱する「30 Seconds To Mars (サーティー・セカンズ・トゥー・マーズ」のジャレッド・レト

歌詞のコーラス部分で、「僕と結婚して」と何度も歌われるうち、私の勝手な妄想は膨らみ続ける一方。

「彼はなんてロマンチックなの! こんな風に、”Marry Me, Marry Me” って哀願するなんて」と、目をハート型にして”The Kill”を聴きこんでいる私に、娘が一言。

「ママ、”Marry Me” じゃなくて、”Bury Me”って、言ってるよ」

えっ? 「結婚して」じゃなくて「埋めて」? 
「僕を埋葬して」って、歌ってるの!? 

子供に笑われながらも、歌詞を理解できなくても、心に響く音楽!
この曲が収められた私の愛するアルバム『ア・ビューティフル・ライ』は、30 Seconds To Marsの2作目で、プラチナアルバムに輝く大ヒットとなった。

そして、なんと、このアルバムジャケットを手がけたグラフィックデザイナーが、たまたま、私の友人のショーン(Sean Mosher-Smith)であったことが判明した時には驚いた。


Sean Mosher-Smithがデザインした30 Seconds To Marsのアルバム『ア・ビューティフル・ライ』のアートワーク

ショーンと私の旦那は、NYブルックリンの小さな会社(The Conspiracyというマーケティング、デザイン、テクノロジー提供のマルチメディア会社)を、共同設立しているパートナー同士。

彼がシールコートニー・ラブなど多くの有名ミュージシャンたちのアルバムジャケットなどをデザインしていることは知っていたが、まさか、ジャレッド・レトのバンドまで手がけていたとは!

旦那のオフィスの壁には、ショーンがクリエーティブ・ディレクション&デザインを担当して授与された「30 Seconds To Mars」のプラチナアルバムが飾ってあり、それに気づいた私は興奮状態。

ジャレッドって、どんな人だったの、とショーンに聞くと、「全てにこだわりがあり、自分で決めていく人」だという。
そして、「彼はその頃、太っていた」と、教えてくれた。

このアルバムのためのミーティングがあったのは、彼がジョン・レノンを暗殺したマーク・チャップマンに扮した『チャプター27』を撮影していた時期だったのだ。

アイスクリームを溶かして飲み続け、自分の体を実在人物と同じく、丸々と太った体型にしてまでの熱演。短期間での激太りの後遺症で、痛風になったり車椅子を使わなくてはならないほど健康を害した。

「この変貌は必要だった。話し方や歩き方、全てにおいて自分というものを変えてしまった。周りの人たちの僕の扱い方まで変わった」

と、彼はコメントしている。

健康のため、もう、こんなことはしないと言っていたのに、その後、『ダラス・バイヤーズクラブ』の役柄のために、今度は14キロもの減量を行った。この人のアートへの貢献は、普通じゃない。

そして、ジャレッドは2014年、この女装のエイズ患者の役で見事、アカデミー・オスカー助演男優賞を受賞したのだ。


Photo by Todd Wawrychuk / ©A.M.P.A.S.

映画では、彼の哀愁を潜むような瞳が、いつも私の心を揺さぶる。
一途な思いが集約されたような瞳。
こんな瞳を持つ彼だからこそ、アートにも一途に打ちこむのだろう。

この瞳に見つめられたら、どんな風だろうかと、私はため息をつく。
いくら、友達が一緒に仕事をしたことがあっても、コンサートに行ってサインまでもらったことがあっても、彼は雲の上の遠い存在だった。

ところが、ついに、チャンスが巡ってきたのだ。
この夏、私は映画の仕事でジャレッドに取材できる幸運に恵まれた。

ミュージシャンとしての活動に忙しかったジャレッド・レトは、俳優として大絶賛された2013年の映画『ダラス・バイヤーズクラブ』のあと、今度はスーパーヒーローの大作『スーサイド・スクワッド』で、映画界に戻ってきたのだ!

現在、全米騒然の大ヒット中の新作で、ジョーカーという難役に挑戦。バットマンの強敵であるジョーカーは、すでにジャック・ニコルソンヒース・レジャーが素晴らしいパフォーマンスを披露したアイコン的キャラクターだ。

それに怖じ気づかずに、全く違った自分なりのアプローチで彼らしい悪役を演じきったのは、とてもジャレッドらしい。あくまでマイペースに、自分の芸術を追求する人だから。

キャストたちが言うに、ジャレッドは撮影中、ずっとジョーカーの役柄になり続けたという。

共演者のウィル・スミスはテレビのインタビューで「つい、この2週間前に僕は初めて、ジャレッド・レトに会った」と、コメント。

つまり、カメラが回っていない時でも、現場に居たのはジャレッド・レトではなく、ジョーカーだった、というのだ。なんと不気味な現場だったことか!


ジャレッド・レトが演じた多岐にわたる役柄。

彼のコンサートを最前列で見たと、私はジャレッドに伝えた。
20代の若者たちに囲まれた唯一の中年女性、6時間も立ちっぱなしで頑張ったと。

「え?」と、彼は戸惑った。
そして、私の年齢を聞いて、彼はひどく驚いた。

「まさか、違うでしょ?」と、周りにいたスタッフにまで「信じられるかい?」と、聞いた。

「すごい! あなたの顔を見てごらんよ。そして、その髪!」

若く見えると言われることはあるが、憧れのジャレッドの、あの瞳に見つめられながら、”すごい”と言われたこの瞬間は、私にとってまさに超現実的な瞬間だった。

彼は9月に来日すると教えてくれた。
『ガイジン』という映画の日本ロケ撮影があるのだという。

「クレヨンハウス、知っている?」

その東京にあるレストランが好きなのだという。

落合恵子さんが大好きな私は「もちろん! その店のオーナーは、反核、反戦の素晴らしい人よ」と、彼に教えた。
彼がベジタリアンであることも、菜食主義の私は嬉しくてたまらない。

いろんな顔を持つ彼だが、それは一瞬、彼が普通の人だと感じた瞬間でもあった。

copyright: Yuka Azuma 2016

 
Comments

私も30STM大好きです。最近の日本ではあまり洋楽RockがPickupされないので、記事をとても楽しく、嬉しく読ませていただきました!これからも楽しみにしています。そしてめっちゃ羨ましい!!!!!!!!

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