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出版50周年を迎えた英語文章書き方本、”The Elements of Style”

On: 知っ得! イングリッシュ豆知識

先日、ニューヨークタイムズを読んでいたら、「’The Elements of Style’ Turns 50」という見出しの記事が目に飛び込んできた。

ウイリアム・ストランクJr.とE.B.ホワイト(注)共著の英語文章書き方心得本、”The Elements of Style”が出版50周年を迎えたというのだ。

わたしがこの本のことを最初に知ったのは、スティーブン・キングの「小説作法(原題”On Writing: A Memoir of the Craft”)」を読んだときだから、多分8年くらい前になるだろう。

「小説作法」の前書きその2でキングは(そう、彼はこの本に前書きを「その3」までつけている)、世の中の文章の書き方本のほとんどはクソみたいなことしか書いてないけど、ストランクとホワイトの”The Elements of Style”だけは例外で、クソはほとんどというか全くみつからない、と言っていた。

当時のわたしは、そりゃさぞかしすごい本に違いないと想像したもんだが、しかし、実際にページをめくる機会は訪れず、そのうち本のことはすっかり忘れてしまった。

そして、ニューヨークに住んで数年が経過した頃、ある大学でエンターテインメント・ジャーナリズムのコースをとった時のことだ。最初の授業で配られたシラバスの中に、ストランク&ホワイトの本が推薦図書としてあげられているのを見つけたのである。

ヘタクソな英文を書かせたらトップレベルのこのわたしが、無謀にも毎週毎週英語で記事を書かされ、その出来で評価されるクラスにいる。しかも、自分以外のクラスメイトは皆英語ネイティブときた。

コースの説明を聞きながらぐるりと周りを見渡して自分の無謀さにようやく気づいたわたしには、シラバスの中のストランク&ホワイト本のタイトルが燦然と輝いて見えはじめ、頭の中では「この本だけはクソにまみれてない」というキングのことばが鳴り響きはじめた。実際にはキングはそんなふうに言っていないにもかかわらず、だ。

ここで会ったが100年目。クラスが終わるやその足で近くのバーンズ&ノーブルに駆け込み、105ページ、10ドル足らずのこの本を買い込んだわたしは、飛ぶようにアパートに戻って読書用の小部屋(またの名をトイレという)にこもって黙々と読みはじめたのである。

ふむふむ、コーネル大学で英語を教えていたストランクが、正しい英語の書き方ルールブックを自分で印刷して学生に配っていたのがこの本の元になっているのか。なになに、1919年にストランクの生徒だったE.B.ホワイトが、40年後に手を加えて出版したのがこの”The Elements of Style”なのか。ということは、ほぼ1世紀にわたって使われ続けてきたってことで、こりゃ極意がたっぷり隠されているに違いない。

ところが、便座に座ってページを繰るわたしが見たのは、文章構成の22の基本ルールと形式についての覚え書き、間違いやすい単語や表現の一覧に、文章を書くときに知っておくべき21の注意点という、いたってシンプルな中身。

所有を表すアポストロフィの使い方やコンマの打ち方、ダッシュとコンマとコロンと括弧の違いなど、知っているようで実はきちんと把握していなかった基本的な用法が例をあげて記載されている。

また、「受動態は避けろ」とか「意見は肯定文で書け」、「不要な語は削れ」など、ダラダラした文章になるのを避けるためのコツもあれば、「書きすぎない」、「大げさに書かない」、「明確に書く」等、経験あるライターとしてのホワイトからのアドバイスもある。

実は、出版から50年、ストランクが最初に印刷した頃から数えるとこの世に出て100年近くになる”The Elements of Style”には「古くさい」という批判も多い。

確かに、言葉は時代とともに変化するのだから、100年近く前に書かれたこの本は今や時代遅れの内容でいっぱいなのかもしれない。

しかし、すっきりした文章を書くコツやアドバイスに「こんなこと考えながら文章を書いたこと無かった」と、わたしの目からはウロコがこぼれ落ちたのである。となれば、それが何年前に書かれたかなど、もはや関係はない。

あの日、トイレにこもってストランク&ホワイトの本を読んだわたしは、この本のおかげで頭すっきり、お腹もすっきりで、鼻息も荒く最初の宿題に取りかかることができた。

50周年を伝えるニューヨークタイムズの記事にもあるが、ストランクは間違いのある文章よりも優柔不断でぐずぐずな内容の文章のほうが質が悪いと考えていたそうだ。

残念ながら、良い文章を書く極意はこの本を読んで一朝一夕で身に付くものではなく、わたしの宿題は、どいつもこいつも必ず真っ赤になって戻って来たし、ぐずぐずな内容のものは必ず書き直し命令付きで差し戻された。

しかし、この本にある22のルールと21のアドバイス、それにその他もろもろは未だにわたしの英作文の質をちょっとだけ上げるのに役立っているのだ。

いやはや、キングは正しい。

この本は古いかもしれないが、決してクソにはまみれていない。

トイレで読んだわたしが言うのだから間違いないのである。

注:E.B.ホワイトは「シャーロットのおくりもの(原題:Charlotte’s Web)」「スチュアートの大ぼうけん(原題:Stuart Little)」などの児童書の著者としても有名。1920年代後半から雑誌The New Yorkerのライターとして活躍した。

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Comments

Elements of Style?どこかで聞いたことあるな〜、と気になってタイトルをクリックしました。
わたしも10年ほど前に通った美大のマーケティングクラスの教授に推薦された本でした。実は今住んでる東京のこの狭いマンションにある本棚に入ってます。。。
推薦図書なので購入したもののパラパラと流し読みして「なんだ〜、意外とシンプルな内容だな」と思ったまま読んでないです。
そうかぁ、Elements of Styleは古くさいと今のライターに思われてるんですね。
でも、このような「古典」教科書を頭に入れておくのと無いのでは違いますね。
(私は頭に入っておりませんが。とほほ。

Juneさん、コメントをありがとうございます。
この本は本当にあちこちで推薦されているようですね。
日本でも1979年に翻訳して「英語文章読本」というタイトルで出版されたことがあるようですし、ご存知の方も多いようです。

とてもシンプルなので、「あれ? どうだっけ?」って時に手に取るようにしてますが、薄いのでいつもどこに隠れているのか見つける方が大変です。(いつも同じところに片付けろ、ってことですな! ははは。)

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