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No.92 他人のために泣ける男こそ、ヒーロー。ブライアン・シンガー監督の側面。

On: セレブの小部屋

え? ブライアン・シンガー監督、泣いてる?
私は戸惑った。

「X-MEN」シリーズの期待作『X-MEN:アポカリプス』の撮影現場。

撮影の行われていたカナダのモントリオールまでNYから飛び、朝から晩まで撮影風景を観察し、今回ついにハゲ頭になったジェームズ・マカヴォイや、撮影オフの日だったのに現場に出向いてくれたマイケル・ファスベンダーなどをインタビューしていた。

もう夜中の10時を回っていた。

時が流れることなど無視してジェームズ・マカヴォイタイ・シェリダンの共演シーンが続き、私は早くホテルに戻りたいと、そろそろ現場での長時間に愛想をつかしていた。

撮影現場でいちばん忙しい人、監督の時間をもらうのは大変だ。

そして、ようやく「カット!」という、ブライアン・シンガーの声が広大なセットに鳴り響いた、その1分後。

待機していた世界各国からの3~4人の記者たちと私の目の前に、まるでX-MENのクィックシルバーかと思うくらいの速さで監督が現れ、その日、最後のインタビューが始まったのだ。

そのときのブライアン・シンガー監督の目。充血していて、泣いたばかりのような顔だったのだ。

「いま撮り終えたのは、感情的なシーンだった」と、ブライアン

え?  だから、泣いちゃったの?

そのシーンが始まる直前にジェームズ・マカヴォイ

「今日、僕たちが撮っているのは、とてもチャレンジなシーンだ。
映画のフィナーレに入りこむ部分で、これでお終い、という感じのものだから」

と、言っていた。

負傷して横たわるジェームズ(エグゼビア役)が、寄り添うタイ・シェリダン(サイクロップス役)の胸に手をやり、そこでサイクロップスが泣いているのがわかるシーンだった。


この映画『X-MEN:アポカリプス』は、2016年8月11日に日本公開。お楽しみに!

実は、ブライアン
撮影現場で涙ぐんでしまうのは、今日だけではなかったのだ。

「ついこの前も、ジェームズ・マカヴォイ(エグゼビア役)がやったことに共感して、僕は見事に大泣きしたんだ。
ジーン・グレイの部屋で、彼には車椅子の位置からジーンの姿が見えない。
そこで、ジェームズが”これは、どう?”と、車椅子から身を起こして腕を頼りに、ベッドの上に乗ったんだ! 
そして、僕はその彼の行為に‥‥」

ブライアンは、声をつまらせた。

「僕は‥それに心を動かされてしまった。
そして、つい耐えられなくなり、泣いた。
僕の心の中には、障害者たちへの特別の念が抱かれているから‥‥」

思い出して、また私たちの目の前で泣きだしてしまうのでないかと心配してしまうくらい、神妙な彼の表情!

「それは彼がやった小さなジェスチャー、ほんの小さな選択だったわけだけれど、現場にいる僕たちにとっては、心を揺らすものだった。
”ワォ! 彼はたったいま、足の不自由な人たちに敬意を示した“と、とれたんだよ。
コミックブックの映画で、そんな人たちの存在に関する側面を表現できるとは」


『X-MEN:アポカリプス』撮影中のブライアン・シンガー監督

出来立ての『X-MEN:アポカリプス』を観て、私はブライアン・シンガーの情をあちこちに感じた。

車椅子のエグゼビアが腕を使ってベッドの上に乗るショットは最終編集でカットされたようで目にしなかった。
でも、この映画には、削られた部分でさえ、アイデア、想い、そして涙が詰まっているのだ。

三部作『X-MEN』『X-MEN:フューチャー&パスト』そして私が撮影現場を訪問した『X-MEN:アポカリプス』のベテラン監督。
彼が、この超人的能力を持つミュータント集団X-MENの製作に魅了されるのが、わかるような気がした。

それは普通の人間とは違う、一般の社会にフィットしない者たちの存在。
風貌の違う者、世間とは違う考えの人、障害者、ゲイ、そんな社会に受け入られにくい人たちに共感できるのが、ブライアンなのではないか。

「父親になってからというものの、涙もろくなってしまってね」

と、ブライアンは教えてくれた。

「僕の一番の親友ミシェルとの間に、ほんの5ヶ月前、愛しい男の子が生まれた。
それからというもの、”家族”という概念が、なおさら特別な意味を持つものになったんだ。
クィックシルバーが父親であるマグニートーと会話するシーン、その部分の脚本を読むだけで、涙ぐむ始末だ。
コミックブックの映画に、感情的に心を打たれてしまっているんだよ!」

そんな彼の話を聞いて、私も笑い泣きしたくなる。

「現場で時折、”オーケー、ちょっと待ってくれ!”と、感情を抑えるために撮影中断しなきゃならない。
その度に、サイモン(プロデューサーのサイモン・キンバーグ)は、”ああ、また彼が例のごとく、あの心情になってしまった”と、ため息をつく始末だ。
子供ができてから、涙腺がゆるゆるになってしまったんだよ。
これは、まったく僕にとって真新しい状態で、5年前の自分からは想像もつかないことだった」


親友ミシェルとの間に赤ちゃん誕生

彼の息子は感情豊かな父親から大きな愛情を受け、なんて幸せな子供だろう。

そして、そんな彼の友達や仕事仲間たちも、やはり彼にとっての”家族”なのだと思うと、彼と仕事できる人たちが羨ましくなる。

「だから、この映画でも“家族”の概念が大きな要素を占めているわけだ。
家族という概念――血のつながりがある家族であっても、血のつながりのない友達や学友やグループやチームという家族であっても、それはこの映画で大きな一部となっているものなんだ」

長時間の撮影の後で疲れているであろうに、彼のトレイラーにまで私たちを移動させて、心を割って話してくれたブライアン
現場で夜中まで待った甲斐があった。

彼の素顔に触れることができたことに、感謝した。

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